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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)5193号 判決 1978年9月11日

第一、昭和五一年(ワ)第一一三八八号本訴事件、

昭和四二年(ワ)第一一七五号反訴事件原告

土橋隆

外二二名

第二、昭和四二年(ワ)第一七〇三号本訴事件、

同年(ワ)第二五四八号反訴事件原告

樋口佐之助

外六名

第三、昭和五二年(ワ)第四八七五号本訴事件、

昭和五二年(ワ)第五一九号反訴事件原告

柏原春之助

右第一ないし第三本訴、反訴事件原告訴訟代理人

森田博之

外一名

右第一ないし第三本訴・反訴事件被告(反訴原告)

太田又博

右訴訟代理人

太田常雄

外二名

主文

一  被告は、別紙物件目録及び仮登記目録、並びに別紙物件目録記載の各土地につき、埼玉県知事に対し農地法第五条による許可申請をせよ。

二  反訴原告に対し、

1  反訴被告武井友幸、同関根仁、同金子裕栄、同柏原春之助は、別紙物件目録及び仮登記目録、並びに別紙物件目録記載の土地につき、埼玉県知事に対し農地法第五条による許可申請をし、右許可があつたときは、同金子裕栄は昭和四二年五月二三日付売買を原因とする所有権移転登記手続を、その余の右反訴被告らは右目録記載の各条件付所有権移転仮登記の本登記手続をそれぞれせよ。

2  右1の反訴被告らを除く反訴被告らは、別紙物件目録及び仮登記目録、並びに別紙物件目録記載の各土地につき、埼玉県知事による農地法第五条による許可があつたときは、反訴被告樋口佐之助、同為ケ谷末吉、同樋口直吉は昭和四二年五月二三日付売買を原因とする所有権移転登記手続を、同反訴被告らを除く反訴被告らは同目録記載の各条件付所有権移転仮登記の本登記手続をせよ。

三  原告らその余の本訴請求、反訴原告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴反訴を通じて三分し、その二を原告(反訴被告)らの、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一  申立<省略>

第二  主張

(昭和五一年(ワ)第一一三八八号、昭和五二年(ワ)第一七〇三号、同年(ワ)第四八七五号 本訴事件)

一  請求原因

(主位的請求の趣旨に対する請求原因)

1 別紙物件目録及び仮登記目録(以下単に別紙物件及び仮登記目録という)並びに物件目録記載の土地(以下本件土地という)は原告らの所有である。

2(一) 訴外亡土橋利吉(原告土橋隆の先々代)、同亡河野幸作(原告河野幸男の先代)、同亡金子政吉(原告金子たみの先代)、同亡内田市五郎(原告内田福太郎の先代)、同亡柳兼松(原告柳正の先代)、同亡冨沢文右衛門(原告冨沢善夫の先代)、同亡関根伊右衛門(原告関根重蔵の先代)及び原告ら(但し右の原告ら及び後記(二)、(三)の原告らを除く)は被告に対し、昭和四二年五月二三日、それぞれ本件土地を、別紙代金目録記載の代金で、農地法第五条所定の県知事の許可があつたときに所有権移転の効力が生ずる条件で売渡した。そして、右原告らは被告から右代金を受領し、同原告らのうち樋口佐之助、同為ケ谷末吉、同樋口直吉、同金子裕栄を除く原告らは本件土地につき右別紙物件及び仮登記目録記載の所有権移転の仮登記を経由した。

(二) 原告武井友幸、同関根仁は被告に対し、昭和四四年四月二九日、本件土地を、別紙代金目録記載の代金で、農地法第五条所定の県知事の許可があつたときに所有権移転の効力が生ずる条件で売渡した。

そして、右原告らは被告らから右代金を受領し、本件土地につき右別紙物件及び仮登記目録記載の所有権移転の仮登記を経由した。

(三) 原告柏原春之助は訴外井上正夫に対し、昭和四〇年五月一八日、本件土地を、別紙代金目録記載の代金で、農地法第五条所定の県知事の許可があつたときに所有権移転の効力が生ずる条件で売渡して右代金を受領し、右別紙物件及び仮登記目録記載の通りその旨の仮登記を経由した。

被告は、昭和四三年六月一八日、右訴外人から売買により右条件付所有権を取得し右停止条件付所有権移転の付記登記を経由した。

3 原告ら(前記一部原告については前記の先代)と被告との間になされた本件土地売買契約は、すでに締結後一〇年前後経過しているのに、依然として所有権移転の効力要件である転用許可を得るための転用許可申請がなされていない。そのため本件土地の公租公課は売主である原告らの負担となつており、法律関係が確定せず原告らは不安定な地位にある。

4 ところが、被告は、原告武井友幸、同関根仁に対し、昭和五二年一月中旬頃、その余の原告ら(但し原告柏原春之助、同金子裕栄を除く)に対し昭和五一年四月下旬頃、転用許可申請の協力を求めて来た。

(一) 後記(二)及び(三)の原告を除く原告らは、昭和五一年四月二八日、内容証明郵便をもつて被告に対し、転用許可申請に必要な原告らの署名押印のある申請書類の交付をすること、被告が右書類を受領後一〇日以内に転用許可申請手続をなすべきこと、右期間内に被告が右手続をしないときは、本件土地売買契約を当然に解除することを通知し、右は同年四月三〇日被告に到達し、右原告らは被告に対し、同年五月一五日、右転用許可申請書類を交付した。

しかし、被告は、右受領後一〇日をすぎても右転用許可申請をしない。

よつて右原告らと被告との本件土地売買契約は、昭和五一年五月二五日限り解除された。

(二) 原告武井友幸、同関根仁、同金子裕栄は、昭和五二年一月二五日、内容証明郵便をもつて被告に対し、同月末日までに転用許可申請に必要な原告らの署名押印のある申請書類を交付すること、被告は右書類を受領後一〇日以内に転用許可申請手続をなすべきこと、被告が右期日までに右書類の受領をしない場合又は右書類受領後一〇日以内に農地転用許可申請をしない場合には、本件土地売買契約は右期間満了により当然解除することを通知し、同内容証明郵便は同年一月二六日被告に到達した。

しかし、被告は同月三一日までに右書類を受領しないために本件土地売買契約は同月三一日限り解除された。

(三) 原告柏原春之助は、昭和五二年五月一七日、内容証明郵便をもつて被告に対し、右書面到達後七日以内に転用許可申請に必要な原告の署名押印のある申請書類を交付すること、被告が右書類を受領後一〇日以内に転用申請手続をなすべきこと、右期間内に被告が右の履行をしないときは、本件土地売買契約は当然解除することを通知し、右内容証明郵便は同月一八日被告に到達した。

しかし、被告は同月二五日を経過するも右書類を受領しないから、本件土地売買契約は右期間の経過により当然に解除された。

5 仮りに本件土地売買契約が存続するとしても、本件土地の所有権移転の効力発生要件である農地法第五条の許可を得ることは、客観的に不能となつたので本件売買契約は失効した。

すなわち、本件土地売買契約締結後、買主である被告が農地法第五条の転用申請を遷延している間に、本件土地は、昭和四五年八月二五日、都市計画法の施行による市街化調整区域に編入された。

市街化調整区域における農地転用許可基準によると、市街化調整区域とは、市街化を抑制し、優良農地を確保する区域であり、同区域の中でも、高性能な農業機械による集団的営農が可能な土地条件を備えた集団的優良農用地については市街化を認めないことになつている。

ところで本件土地については、昭和五一年一〇月二日、所轄行政庁である農林大臣(二ヘクタールをこえる転用の場合は知事を経由して農林大臣の所管となり、地方農政局が担当する)から、右理由により転用許可が不能である旨が内示された。

したがつて形式的には不許可処分ではないが、実質的にはそれと同視できる行政庁の判断が下されたのである。従つて、本件土地の売買による所有権移転は、客観的に不能となつたものと言うべきで、売買契約はその目的を達することができず失効したと言うべきである。

6 しかし、被告は、原告らには前記2の所有権移転義務があると主張している。

7 以上の次第で、原告らは被告に対し請求の趣旨記載の判決を求める。

(予備的請求の趣旨に対する請求原因)

1 主位的請求の趣旨に対する請求原因1、2、3を援用する。

2 よつて、予備的請求の趣旨記載の判決を求める。<以下、事実省略>

理由

一当事者間に争いのない事実

(一)  本訴事件主位的請求原因1のうち登記簿上の所有名義が原告(反訴被告、以下単に原告という)らであること(原告樋口佐之助の名義であることについては争いがあり、<証拠>によれば表示の登記の所有者欄の表示が樋口茂十郎であることが認められるが、次の(二)で明らかなように別紙物件目録(1)の本件土地の売主が原告樋口佐之助であることは当事者間に争いがない)、(二)、同2の事実(主位的反訴請求原因1の事実、予備的反訴請求原因1の事実)、(三)、同3の前段の事実、(四)、同4の前文の事実、同4(一)ないし(三)中原告らの内容証明郵便が原告ら主張の年月日に被告(反訴原告、以下単に被告という)に到達したこと、被告が、右4(一)の関係で原告主張の農地法第五条の転用申請書類を受領し、右4(二)及び(三)の関係では原告主張の農地法第五条の転用申請書類を受領していないこと、(五)同5中本件土地が原告主張の日に都市計画法による市街化調整区域に編入されたこと、原告ら主張の農地転用許可基準が存すること、原告主張の日に農林大臣から本件土地につき転用許可の見込みがない旨内示されたこと、(六)同6の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二本件土地売買契約の解除について

そこで本件土地売買契約につき解除の効力が生じたか否かにつき検討するに、農地の買主が農地法第五条の許可申請手続に協力しない場合でも、売買代金が完済されているときは、特段の事情のない限り、売主は買主が協力しないことを理由に右農地売買契約を解除することはできないと解すべきところ、被告が原告らから本件土地を買受けたが未だ農地法第五条の許可申請手続をしていないこと、他方被告が原告らに対し既に別紙代金目録記載の売買代金を完済していることは、前記の通りいずれも当事者間に争いがない。そこで、原告らに本件土地売買契約を解除するにつき特段の事情があるか否かにつき検討する。

1  前記の通り、被告は原告らから(別紙物件及び仮登記目録(24)の土地については原告柏原春之助から買受けた訴外井上正夫から)、本件土地を、昭和四二年五月二三日から昭和四四年四月二九日にかけて、知事の許可を条件に買受けたが(原告内田優本人尋問の結果によればこの売買価格は当時としては通常の世間並み相場であつた)、現在に至るまで知事に対して農地法第五条の転用許可申請手続をしていないことは当事者間に争いないところ、<証拠>によれば、右のように転用申請の遅れた理由は、本件土地は幹線道路に接していないため県道上尾久喜線に接するべく、本件土地から同県道の宮前大橋に至るまでの数十メートルの間に既存の備前前堀に沿つて道路を開設するため土地を買収しようとしたが値段の折合がつかず成功しなかつたこと、農地法第五条の転用申請は原告らにつきできるだけ一括申請しようとして手続を進めたが、原告ら及び本件土地筆数が多く、しかも原告らに相続が介在した(主位的請求原因2(一)主位的反訴請求原因1(一)。この点については前記の通り争いがない)ためそれは進捗しなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右のような状況で転用申請が遅延していたところ、昭和四五年八月二五日、本件土地は都市計画法の規定により市街化調整区域に定められた(この点は当事者間に争いない)。そして<証拠>によれば、被告は、昭和五一年六月三日、関東農政局長に対し自己が代表取締役をしている東京機工株式会社名で、使用目的材料置場用地として、農地転用事前審査の申出をしたところ、同局長から、本件土地は集団的に存在している農地内にあり、かつ高性能な農業機械による営農が可能な土地条件を備えていることから市街化調整区域許可基準の甲種農地に該当し、同許可基準上許可の見込みがない旨の回答があつたことが認められる。

3  原告武井友幸、同関根仁、同金子裕栄、同柏原春之助を除く原告らが、被告に対し、昭和五一年五月一五日農地法第五条の転用申請書類を交付したことは当事者間に争いがない。<証拠>に右2で認定した事実にてらすと、被告は、前記事前審査の回答があつたことから、右転用申請書類を徴しながらも、その旨を申請するのを差し控えているものと認められる。

4  そして、<証拠>によれば、被告は、本件土地につき、現況では前記の通り農地法第五条による転用許可の見通しがないとしても資材の置場に事実上使用するなどして、将来転用許可が可能になるまで待つ意図があることがうかがわれる。

5  <証拠>によれば、本件土地の公租公課は本件土地売買契約に伴い被告が負担する約束であるところ、本件土地売買契約後も、本件土地は原告ら名義であることから、原告らに対し固定資産税が課されて来たが、被告は右約束に従い売買契約後の本件土地に関する公租公課は被告において負担する意図で、昭和四四年分まで原告らにそれを交付してきたけれども、原告らは、本件土地売買契約は無効であるとし、昭和四五年八月三一日付で、右昭和四四年の固定資産税分を被告に送り返してきたので、その後の公租公課は現実には被告において支払つていないことが認められる。

以上の各事実が明らかであるが、右の各事実によれば、まず原告らは、既に本件土地につき、売買当時としてはいわば世間並み相場の売値でその代金を全額受領済みである。他方確かに現況で本件土地は市街化調整区域とされ、農地法第五条の転用許可のなされることは早急に望み得べくもないことがうかがわれるが、都市計画ないしはいわゆる土地政策なるものは時の推移とその必要の度合いにより適切に遂行されるべきもので、決して固定的なものではないのであり、前記現況で農地転用許可の見込みがないからといつて直ちに農地転用が将来とも全く不可能なものであるということはできない。しかも被告は現況での右転用の困難さにも拘らず、転用が可能の状況になるのを(時期は全く不明なのに)待つというのである。そして、本件土地に対する公租公課等負担も買主である被告においてなすという契約上の約束を被告が履行しようとするのに原告らにおいてこれを拒んでいるという前記事実にてらすと本件土地売買契約が存在することにより原告らが法律上特に不安定な地位に立つとも認め難い。してみると、いずれの点からしても、原告らには、本件土地売買契約を解除しうべき特段の事情があると認めることはできない。

三本件土地売買契約の失効について

そこで、原告主張の、本件土地売買契約の効力要件である農地法第五条の許可が不可能で、右条件の成就は不能となつたから本件土地売買契約は失効したとの点につき検討するに、右二で判断した通り、現況では本件土地につき農地法第五条の許可の見通しは困難だとしても、そのことが直ちに同条の許可不能を意味するとは認められないのであるし、更に前記被告の意思、本件土地売買契約の成立を維持してもそれにより原告らが法律上不利益な地位に立つものとは認められないことを併せ考慮すると、本件土地売買契約が失効したとの原告らの主張は理由がないというべきである。

四予備的本訴請求について

原告らの本訴請求については、以上にみた通りの理由によりその主位的請求は失当で認められないというべきであるが、その予備的請求については、原告ら及び被告とも、本件土地売買契約に伴い埼玉県知事に対し本件土地につき農地法第五条の転用許可申請の義務を相互に負担していることは前記の通り争いないのであるから、本件土地の売主である原告らが買主である被告に対してもその申請をするよう求める請求は(現況ではその申請をしても容れられないであろうことは前認定の通りであるが)、結局理由があるものというほかない。

五反訴請求について

1  そこで次に被告の主位的反訴請求につき検討するに、<証拠>によれば、本件土地は現状では耕作されておらず雑草が繁茂してはいるが、もともと本件土地売買契約のされる前年まで水田として耕作されていたのであつて、現在でも手を加えれば水田に復元することが容易であることが認められるのであつて、本件土地が原野に変更されたとの被告主張は認めることができない。

従つて、右変更を前提とし、本件土地につき原野に地目変更の登記手続をしたうえで本件土地の所有権移転登記手続を求める被告の主位的反訴請求は理由がないというべきである。

2 次に、予備的反訴請求につきみると、前記一、(二)の争いない事実にてらすと、原告らが被告に対し、本件土地売買契約に伴い、農地法第五条の転用許可申請をする義務を負担し、右転用の許可があつたときは、原告樋口佐之助、同為ケ谷末吉、同樋口直吉、同金子裕栄は別紙物件目録記載の土地につき売買に伴う所有権移転登記手続を、右原告ら以外の原告は本件土地につき別紙物件及び仮登記目録記載の仮登記の本登記手続をする義務のあることは、明らかであるところ、前記の通り、武井友幸、同関根仁、同金子裕栄、同柏原春之助を除く原告らは、既に被告に対し農地法第五条の転用許可申請書類を交付しその義務を果していることは当事者間に争いないのであるから(但し<証拠>にてらすと地番等に若干の不一致はある。また、その余の原告らについても、<証拠>によれば原告らにおいて農地法第五条による転用許可の書類を準備したことはうかがえるが、被告に交付されていないことは前記の通り当事者間に争いがない)、被告の予備的請求のうち右原告らに対して更に農地法第五条の転用許可申請に協力するよう求める部分は失当というべきである。

六以上の事実によれば、原告の本訴請求及び被告の反訴請求は、結局主文の限度で理由があるというべきであるからそれぞれこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し本訴反訴を通じてこれを三分し、その二を原告らのその余を被告の負担とし、主文の通り判決する。

(渋川満)

物件目録及び仮登記目録、代金目録、<省略>

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